■□ ニュース速報 □■

日本では報道されなかったようですが、EU議会のシュルツ議長がイスラエルを訪問、クネセト(イスラエル国会)で演説中、西岸地区の水資源配分が入植者とパレスチナ人の間で不均等だと聞いている旨を発言したところ、入植推進の右派政党の議員団が「ユダヤ人を殺したのはナチスだ」と叫んで立ちあがり、同僚議員を誘って退席するというハプニングがありました。

シュルツ議長はドイツ人で、EUのなかでは親イスラエルの人なのですが、「水」問題は、イスラエルではタブーに近い扱いを受けています。また、最近、E Uが入植活動の拡大に警戒心を強め、ヨーロッパ諸国による入植地産品や入植活動に関係する企業のボイコットをすすめていて、イスラエルとEUの関係が冷却化しています。この事件もその反映かもしれません。

クネセト議員の「馬鹿さ加減を露呈した」と突き放しているイスラエル紙もあります。

イスラエルによるシナイ半島占領中のことは、一般にあまり知られていませんが、1972年、イスラエル軍が同半島で大規模な軍事演習を行ったとき、3000人のベドウィン(砂漠の遊牧民)が、突然、退去を命じられたことがありました。演習の責任者は、先月死亡したアリエル・シャロン将軍(元首相)で、ベドウィンは冬の砂漠へ着の身着のまま追い出され、子どもや老人40人が死んだというのです。

ご存知の方もあると思いますが、冬の夜の砂漠は凍てつく寒さなのです。この話は、Haaretzの元編集長が書いた、シャロン将軍の伝記に記されているということです。当時、表に出なかったのは、軍の検閲に引っかかったのではないかと推測されています。


【2月10日(月)】

■雑草を煮て食べる――飢餓のヤルムーク難民キャンプ−−シリア内戦■

同日のBBCは、シリア内戦の戦場となったダマスカス郊外ヤルムーク難民キャンプの窮状を詳しく伝えている。キャンプからは、10万人以上の住民が逃亡、逃げ遅れた約1万8千人が、食糧や医薬品不足に苦しみ、今年1月18日から散発的に搬入される支援物資で生命をつないでいる。

キャンプ住民の話によると、食糧が尽きたキャンプでは、雑草やキャンプ内のその他の植物を煮て食糧にしているが、乳児は、母親の病気や栄養不良で母乳が出ないため、しばしば死亡、キャンプ全体では、これまでに住民約100人が餓死したという。

同キャンプ内のパレスチナ人の一部 は、政府支持派と反政府派に分かれ、反政府派と結んだ反政府軍がキャンプの一部を占拠、これをシリア政府軍が包囲し、キャンプへの物資の搬入が途絶えた。

PLOの要請などで、各派は安全回廊の設定に合意、1月18日から物資搬入が開始され、UNRWAによると、これまでに6000包の食糧(米、砂糖、マメ、食用油、粉乳、など)が供給されたが、量は不十分、とくに生鮮食品が不足している。(2/10 BBC)

BBCの記事と写真

同日のGuardianでもキャンプの模様を詳しく伝えている:



【2月11日(火)】

■トルコ首相「ガザ封鎖解除まで、イスラエルとの関係正常化はない」■

2010年5月のガザ救援船急襲でトルコ人9人が殺された事件に関連して、トルコのレジェプ・タイープ・エルドガン首相は、イスラエルとの補償交渉が進んでいることを認めたが、イスラエルとの外交関係正常化については、イスラエルが「ガザ封鎖を解除するまでは何事も起こらないだろう」と断言した。 トルコ訪問中のマリアノ・ラホイ首相との共同記者会見で述べた。

一方、前日のテレビ出演で、トルコのアハメト・ダウトリュ外相は、対イスラエル交渉の前進で、関係正常化にこれまでなく近づいたと語っていた。(2/11 Haaretz)

■パレスチナ自治政府、IDから「宗教」の項目を廃止■

パレスチナ自治政府内務省のハサン・アラーウィ次官によると、アッバース大統領は、11日を以て、IDカードから「所属宗教」の項目を削除する大統領令を発令した。宗教に関係なくすべてのパレスチナ人は平等という原則を徹底させるため。

西岸地区在住パレスチナ人の大多数はイスラーム教徒で、キリスト教徒は10%弱で、サマリア人(ユダヤ教徒に近い教義)が数百人居る。また、ガザ地区のキリスト教徒は数千人。(2/13 Maan News)


【2月12日(水)】

■シャロン将軍のベドウィン強制退去命令で子どもら約40人死亡――1972年■

同日のHaaretzが紹介する、アリエル・シャロン将軍の伝記によると、40余年前、同将軍の指揮下でおこなわれたシナイ半島での大演習で、約3000人のベドウィンが演習予定地からの退去を命じられ、その結果、ベドウィンの子どもら40人が死亡した。シナイ半島は1967年の戦争でイスラエルに占領され、1979年の平和条約でエジプトに返還されるまで、イスラエルの支配下にあった。

伝記の著者ダヴィッド・ランダウは、元Haaretz編集長で、強制退去事件は、イスラエルのベドウィン調査・研究の権威、イツハック・バイレイ(Yitzhak Bailey)のレポートに拠っている。

シナイ半島での演習は、スエズ運河渡河作戦を想定、ゴルダ・メイア首相、モシェ・ダヤン国防相らも観閲、第4次中東戦争の20ヶ月前の1972年2月20日に開始、6日間に及んだ。この演習の指揮をとったシャロン少将は、予定地にキャンプを張り放牧していたベドウィン3000人に対し、事前通告もなしに退去を命じた。 このため、着の身着のまま冬の砂漠に投げ出された遊牧民は、数十キロの移動を余儀なくされ、約40人が死亡、犠牲者は主に乳児、子ども、老人だった。

その後42年間、事件は秘密とされ、関係者の誰も責任を問われていない。

バイレイがHaaretzに語ったところでは、彼は、当時、シナイ半島の予備役将校で、死亡したベドウィンの埋葬などに関 与、写真を撮り、上司のシュロモ・ガズィット准将に報告、准将は調査すると言ったが何も起こらず、ベドウィンたちも帰還を許可されなかった。バハレイは、その後、友人の新聞記者に、このことを話したが、記者は2004年に死亡、事件の内容は出版されなかった。軍の検閲で差し止められたのではないかという。

シャロン将軍は、第4次中東戦争ではスエズ強行渡河作戦を指揮、戦況を逆転させたが先の演習が功を奏したとも言える。2001年から2006年に脳卒中で倒れるまで首相で、今年1月11日死去した。(2/12 Haaretz)

■EUとしては、イスラエル・ボイコットは行わず■

テレビ「チャンネル2」によると、イスラエル訪問中のヨーロッパ議会のマーティン・シュルツ議長は、同議会としてイスラエル・ボイコットを決議することはないと語った。ボイコットを実行するとすれば、それぞれの加盟諸国で、ヨーロッパ連合としてのボイコットはないと説明した。

シュルツ議長は、エルサレムのヘブライ大学で行われた、同議長への名誉博士号授与式で、イスラエル=パレスチナ紛争の解決策として最良の方法は交渉によるもの、EUが関与することではない、と述べた。(2/12 Haaretz)


【2月12日(水)】

■ヨーロッパ議会議長のクネセト演説に右派議員が噛み付く■

イスラエルを訪問中のEU議会マルティン・シュルツ議長の演説に、右派議員が激怒、ヤジを飛ばし退場するハプニングがあった。ネタニヤーフ首相もEU議長の演説を非難した。

シュルツ議長は、クネセト(イスラエル国会)での演説のなかで、西岸地区の水問題に触れ、パレスチナ人の若者から「なぜパレスチナ人はイスラエル人の4分の一の水しか配分されないのか」と聞いたことを紹介、「私はデータを確認していないが、これは本当だろうか」と語った。

右派政党ハ・バイト・ハ・イェフード(ユダヤの家)の一議員が立ちあがり、ドイツ出身のシュルツ議 長に向かって「われわれはナチスに殺された。これをどう思うか」と抗議、仲間の議員たちを誘って途中退場した。

この後登壇したネタニヤーフ首相は、「EU議長は、正直に『データを確認していない』と言った」が、こういう言い方は、「イスラエルの評判を傷付けるものだ」と非難した。しかし、首相は、水配分についてのデータは示さなかった。

イスラエルの人権団体「ベツェレム」の先月の報告によると、西岸地区のイスラエル人入植者は、ひとりあたり、同地区のパレスチナ人の3倍の水資源配分を受けている。また、2012年12月の国連の報告では、イスラエル人は6倍の水を配分されている。(2/12 Reutersほか)

この事件について、イスラエル紙Haaretzは、クネセト議員たちについて、「馬鹿げた振る舞い」と酷評している:

<The display of provinciality and victimhood in the Knesset on Wednesday during the speech of the president of the European Parliament broke all records for foolishness and embarrassment in our legislature.>

■ユダヤ系アメリカ著名人グループがケリー長官の仲介に支持表明■

イスラエル=パレスチナ交渉仲介のシャトル外交を展開中のジョン・ケリー米国務長官を支持して、ユダヤ系アメリカ人グループ「イスラエル・ポリシー・フォーラム」が、イスラエルのネタニヤーフ首相宛に書簡を送り、「この決定的な時期を失することのないよう」にと訴えた。

書簡には、アラン・デルショウィッツ(法律家)、ジム・ウォルフェンゾーン(元世界銀行総裁)、デボラ・リプシュタット(歴史家)ほか、慈善事業活動家、企業家など、著名な150人が署名している。

「アメリカ・ユダヤ社会の多数は、イスラエル=パレスチナ紛争の交渉による解決、すなわち2つの人民に2つの国家を目指す貴職の尽力を支持する」「これは、バイ・ナショナリズムを排し、強力なユダヤ人の民主的イスラエルを実現するのに必要」だと述べ、また、パレスチナ自治政府の「アッバース大統領が、強いリーダーシップで交渉を前進させることを期待する」としている。(2/13 Haaretz)


【2月13日(木)】

■「壁」建設予定地の古代段々畑を「世界遺産」に改めて申請■

同日のHaaretzによると、パレスチナ自治政府は、古代からの段々畑が残っているバティール村をUNESCOの世界遺産に登録するようにと、改めて申請、審査を急ぐよう要請した。

バティール村は、ベツレヘムの西約6kmで、近くをエルサレム=ヤーファー鉄道が走り、イスラエル側は、治安を理由に分離壁の建設を計画中。 この「壁」ができると、西岸地区に唯一残っている古代ローマ時代以来の段々畑が損なわれるため、同村は「壁」建設の差し止めを求めて提訴、パレスチナ自治政府は、「世界遺産」登録で「壁」建設計画に抵抗した。 世界遺産登録が決まれば、 現状変更による景観の変更が難しくなる。

その後、昨年6月、アメリカのケリー国務長官が、7月からのパレスチナ=イスラエル交渉を前に、自治政府に世界遺産申請の凍結を要請。このため、審査は停止されていた。

しかし、ケリー長官仲介の交渉が進展せず、UNESCOの関係筋によれば、パレスチナ側は、申請更新期限の今年1月31日に審査再開を求めた。 「和平の枠組み」ケリー案での合意失敗の可能性を見越した動きだと見られる。

バティール村は、一部がグリーンライン(1949年の停戦ライン)のイスラエル側にあるが、当時、イスラエルとヨルダンの停戦協定でアラブ側の耕作が認められたという特殊事情のあるところ。

イスラエルの自然・公園局(Israeli Nature and Parks)と環境保護団体フレンヅ・オブ・アースも、「壁」建設が、この古代遺産に深刻なダメージを与えると見ている。(2/13 Haaretz)

■イスラエル兵、ガザ地区でパレスチナ人射殺■

ガザ政府保健省によると、ガザ市東部で、パレスチナ人イブラーヒーム・スレイマーン・マンスール(26)がイスラエル兵に頭を撃たれ死亡、21歳の青年が負傷した。マンスールの親族によると、彼は(建材用の)砂利を集めていたという。 イスラエル軍は、青年がガザ地区とイスラエルを隔てるフェンスに触っていたので、離れるよう警告、上空に発射したあと、男を銃撃したとしている。(2/13 Reuters、Maan News)

■E−1地区の入植者住宅建設反対デモ■

西岸地区「マアレ・アドミーム」入植地に隣接する「E−1地区」での入植者住宅建設に抗議するパレスチナ人数十人のデモが行われ、活動家1人が治安部隊に拘束された。同地では、入植地建設を要求する入植者やクネセト議員、ラビらのデモが計画されており、パレスチナ人のデモはこの先手を打って行われた。

イスラエル政府は、2012年、パレスチナが国連の「オブザーヴァー国家」として認められたことの報復として、E-1地区に入植者住宅数百戸の建設を発表。国際的な批判で一時凍結している。E-1地区の入植地が完成すると、東エルサレムが完全包囲され、ここを首都とするパレスチナ国家樹立は物理的に不可能になるため、EU諸国は、入植地産品や関係企業へのボイコットを進めており、EU とイスラエルの関係は冷却化している。

(出典:BBC、Haaretz、Maan News、Reuters)


<注1> 2011年5月、ファタハとハマースは、統一政府の再建 で合意しました。しかし、この合意実施は手間取り、西岸地区とガザ地区の政権は存続しています。このニュースでは、統一政府が実現するまでの間、引き続き、「アッバース大統」「ファイヤード首相」(西岸政権)「ハニーヤ首相」(ガザ政権)の名称を使うことにします。

<注2> 9日の国連総会決議で、パレスチナは、国連によって、ヴァティカン同様「オブザーヴァー国家」として承認されました。「パレスチナ国家」「PLO」「パレスチナ自治政府」(西岸政権とガザ政権)の関係がどうなるのか、国際法的にも微妙な問題がありそうです。パレスチナの組織やパレスチナ人の役職などをどう表現するか、依然として、試行錯誤中です。

<注3> 各ニュース記事末尾の(カッコ)内は、その主なニュース源です。必ずしも、元の記事の翻訳や抄訳ではありません。とくに断らない限り、Webサイト上の情報です。
日本語ニュースの場合、固有名詞の表記などは、編集者の判断で変えることがあります。ご理解をお願いします。

<注4> この速報では、東京外大「日本語で読む中東メディア」(中東ニュース)と、フランス語紙翻訳グループ「ジャリーダ・ファランスィーヤ」による記事を時々利用させていただいております。編集者の責任で、記事を短縮する場合があります。

編集:岩浅紀久

HOMEに戻る