■□ ニュース速報 □

国際的ハイライトは、8日、ローマ教皇庁で行われた、パレスチナのアッバース大統領、イスラエルのペレス大統領の共同礼拝です。 この象徴的なデモンストレーションからは、さまざまなメッセージを読み取ることができるでしょう。ハムダッラー、ネタニヤーフ両首相は招待されていません。 強硬派のネタニヤーフ首相を招かなかったことも、そのメッセージのひとつと言えないでしょうか。

ところで、比較的穏健派とされるペレス大統領の任期はまもなく終了し、7月24日には、レウベン・リヴリン前国会議長が就任します。10日のクネセトで選出されたリヴリン氏は、同じリクードでもさらに右の強硬派として知られています。 イスラエルの大統領に政治的実権はありませんが、この国の右傾化を象徴するものと言えるでしょう。

イスラエルによる裁判抜きの投獄「行政拘留」に抗議するハンストが続いています。バン・キムン国連事務総長も、ハンスト中の政治囚の健康悪化に懸念を示し、訴追するか、直ちに釈放するか、どちらかを選ぶべきだと発言しました。

戦前の日本には、「予防拘禁」という制度がありました。 現在「民主主義国」「文明国」を自称している国で、このような制度を維持している話は、聞いたことがありません。ブッシュ・ジュニア大統領が、「テロ容疑者」とみなす人々をグァンタモナの収容所に投獄したアメリカのケースが、その例外となっているくらいでしょう。


【6月5日(木)】

■オーストラリア 司法長官「東エルサレムを『占領地』と呼ぶのは不適切」■

オーストラリアのメディアによると、同国のジョージ・ブランディス司法長官は同日、上院で東エルサレムについて「占領地」という表現は「非難の意味合い」がある言葉だと指摘。「適切でも有益でもない」「オーストラリア政府は、交渉課題となっている地域について、こうした判断基準を含むような用語を用いるべきではないし、用いることはない」と述べた。

これに対し、PLOのハナン・アシュラーウィ執行委員は、「ショッキングな発言だ。イスラエルが違法に東エルサレムを併合したことを指摘するのは、『不適切』でも『侮蔑的』でもない。エルサレム併合は、国際法に違反し、文明国にあるまじき行為だ 。ブランダイス長官の発言は、無知によるものか、偏見によるものか知らないが、オーストラリアがイスラエルの違法な占領を支持することにつながる」と強く批判した。イスラエルのネタニヤーフ首相は8日の閣議で「オーストラリア政府の態度を評価する」などと称賛。一方、パレスチナ側は強い懸念を表明し、オーストラリア政府に公式な説明を求めている。(6/5 Maan News, 6/9 共同)

■イスラエル・ユダヤ人の多数は、一方的な西岸地区併合、撤退のいずれにも反対■

同日のHaaretzが、ミドガム調査研究所(Midgam Research Institute)実施の世論調査結果として、伝えるところによると、ユダヤ系イスラエル人の多数が、イスラエルによる西岸地区併合、または一方的な(交渉・協定によらない)撤退のいずれにも反対している。

併合には、49%-43%で反対が多数。一方的撤退には60%が反対。 これに対し、アラブ系イスラエル人では、72%が併合に反対だが、3分の2以上が一方的撤退に賛成している。2日のパレスチナ統一政府成立に関連して、強硬右派のナフタイ・ベネット経財相(ハバイト・ハイェフーディ)は、グリーン・ラインに近い入植地の一方的併合を論じ、ネタニヤーフ首相もなんらかの一方的措置に言及していた。世論調査は、5月28〜29日、605人を対象に行われ、誤差は±4.1%。( 6/5 Haaretz)

■入植者住宅1500戸に、EUが警告■

イスラエルが、4日のパレスチナ統一政府実現への対抗措置として、西岸・東エルサレム地区に入植者住宅1500戸新設を認可したことに対し、EUは、「非常に失望した。これは平和のためにならない。 われわれは事態の推移を注視する」との声明を発表した。 Haaretz紙は、更なる経済制裁への「間接的な警告」と見ている。アメリカも、この住宅新設計画については、「失望」を表明している。(6/5 Haaretz)

■国連委員会「イスラエルは裁判抜きの投獄を止めるべき」■

イスラエルの行政拘留に抗議するパレスチナ政治囚のハンストに関して、国連の特別委員会(Special Committee to Investigate Israeli Practices Affecting the Human Rights of the Palestinian People and Other Arabs of the Occupied Territories)は、同日の記者発表で、「囚人は、なぜ拘留されているかを知る権利がある」と述べ、裁判抜きの投獄を中止するよう呼びかけた。特別委は、囚人が拘留に関して「正当な法手続きを求めるのは、最も基本的な権利だ」と指摘している。裁判抜きで投獄されている政治囚約120人は、4月25日から抗議の無期限ハンストを続け、その後数百人の囚人が連帯のハンストに入っている。(6/7 Haaretz)


【6月6日(金)】

■ネタニヤーフ首相とペレス大統領、エジプトの新大統領に祝福の電話■

エジプトの新大統領に選出されたアブドゥル・ファッターハ・アッスィスィに、ネタニヤーフ首相とペレス大統領が電話、選挙勝利を祝った。アッスィスィ大統領は、5月の選挙で対立候補に圧勝、今月3日に当選が正式発表された。 8日に就任する。イスラエル首相がエジプト大統領と電話で話すのは、2011年にムバーラク前首相が辞任に追い込まれて以来、初めてである。

イスラエル首相府によると、「首相は、エジプトの安定、反映、平和を望むと伝えた」。アッスィスィ次期大統領は、エジプト=イスラエル平和条約が地域すべての人々 のために役立つことを望むと述べ たという。(6/6 Haaretz)

■国連事務総長、ハンスト政治囚の健康悪化に憂慮■

国連のバン・キムン事務総長は、行政拘留に抗議のハンストを続けているパレスチナ政治囚の健康悪化に懸念を表明、囚人を正式に訴追するか、即時釈放するかのどちらかを選ぶべきだと語った。 国連のステファン・ドゥジャリク報道官が伝えた。イスラエル監獄当局は、ハンストで入院した政治囚は65人だが、全員意識があり危険な状態ではないとしている。パレスチナ側によれば、入院治療が必要な政治囚は78人。(6/7 Reuters)


【6月7日(土)】

■エジプト、ラファハ検問所の恒常的開放の用意■

エジプト政府高官は、匿名で、シナイ半島とガザ地区を結ぶラファハ検問所を恒常的に開く用意があると語った。 同検問所をパレスチナ統一政府の監視下に置くことが条件。また、同高官は、アッバース大統領の官邸をガザ地区で再開して欲しいと要請した。エジプト高官は、ハマースとファタハの和解を歓迎するが、ハマースが、ムスリム同胞団と関係を持たず、エジプトの内政に介入しないことが必要だ、と述べた。(6/7 Maan News)

■西岸・ガザ地区で一斉に高卒資格試験、受験生の過半数は女子■

大学進学につながるタウジーヒ(高卒資格試験)が、西岸・ガザ地区で一斉に開始して、パレスチナ人学生約86,000人が受験した。パレスチナ自治政府高等教育省によると、同日の科目は「イスラーム」で、受験者の53%は女子だった。 地域別では、西岸地区で48,000余人、ガザ地区で37,000人強が受験した。タウジーヒは、26日の「技術」を最後に終了する。(6/7 Maan News)


【6月8日(日)】

■パレスチナ、イスラエルの両大統領がローマ教皇庁で共同礼拝■

フランシスコ・ローマ教皇は、イスラエルのペレス大統領とパレスチナ自治政府のアッバース大統領をヴァティカンに迎え、中東和平を訴える合同祈願の集いを開いた。対立するイスラエルとパレスチナの首脳がヴァティカンで共に祈りをささげたのは初めてで、教皇は紛争解決の仲介者としての役割を国際社会に印象付けた。教皇は「和平には勇気がいる。 紛争を拒む勇気が必要だ」と述べ、中東和平の実現を呼びかけた。

宗教的な装飾がないことから会場に選ばれたヴァティカン内の庭園では、ユダヤ教、キリスト教、イスラーム教の順に、宗 教指導者がそれぞれの言語で 祈りをささげた。教皇は5月の中東歴訪で、ペレスとアッバースをヴァティカンに招待し、これに両大統領が応じた。ペレス大統領は「私は戦争を経験し、平和を味わった。 残りの人生は次の世代の平和のためにささげる」と語り、アッバース大統領は「我々は、我々のための平和と、隣人のための平和を求めている」と述べた。 3者は握手を交わし、平和の象徴とされるオリーブの木を植えた。

教皇外交の原動力は中東に暮らすキリスト教徒の域外流出に歯止めをかけ、窮状を改善したいとの願いだ。ローマ・LUMSA大学のボニーニ教授は「従来の力関係や紛争当事者の利害という側面でなく、(宗教という)別の角度から光を当てようとする新たな試みだ」と分析する( 6/9 読売、6/10 毎日)

■イスラエル、パレスチナ・サッカー協会の役員渡航を拒否■

パレスチナ・サッカー協会の記者発表によると、同協会は、ムハンマド・アンマーシ事務局次長をサンパウロのFIFA会議に出席させる予定だったが、イスラエル当局による渡航拒否により、キャンセルを余儀なくされた。これに対し、イスラエル占領民政当局のグイ・インバル報道官(少佐)は、渡航申請が予定日の10日以前に提出されなかったためで、再申請すれば考慮するとしている。(6/8 Haaretz)


【6月9日(月)】

■ウライカート交渉局長「ネタニヤーフ首相は、交渉ではなく入植地を選んだ」■

PLOのサーイブ・ウライカート交渉局長は、ローマ教皇が8日にヴァティカンで開いた中東和平祈願の集いを「歴史的な日」と歓迎し、和平機運を高める波及効果に期待を表明した。アッバース・パレスチナ自治政府議長とペレス・イスラエル大統領が法王と共に平和の祈りをささげた8日の集いに参加。 9日のアッバース議長とモゲリーニ・イタリア外相の会談後、ローマで記者団の質問に答えた。

ウライカート氏は中東和平情勢について「親パレスチナか親イスラエルかで陣営が分かれているのではなく、和平支持か和平反対か で分かれている」「ネタ ニヤーフ首相は平和ではなく入植地を建設している」と非難した。 さらに「8日の集いでネタニヤーフ首相への圧力が強まるか」との毎日新聞の質問には「圧力うんぬんでなく、和平はイスラエルとパレスチナにとって必要であり、双方にとっての利益なのだ」と答えた。(6/10 毎日)

■国際人権団体「非武装のパレスチナ2少年殺害は戦争犯罪」■

非武装のパレスチナ人の少年2人がイスラエル治安部隊に射殺された事件で、国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」 (HRW)は、「占領当局の治安部隊が一般市民を意図的に殺害することは、戦争犯罪に当たる」と述べ、責任者の処罰を求めた。事件は、5月15日の「ナクバの日」にイスラエルのオフェル監獄に向け、ハンスト中のパレスチナ政治囚への連帯デモで発生、デモに参加していた、ナディーム・ナワーラ(17)とムハンマド・アブー・ダーヘル(16)が治安部隊に射殺された。

HRNのサラ・レア・ウィトソン中東・北アフリカ担当部長は「イスラエルは、2人を実弾で狙撃した部隊と、隊員の責任を追及し訴追する責任がある」と語った。 HRNによれば、事件現場の画像、その他の証言などから、2少年が治安部隊に脅威を与えるものではなかったし、隊員が実弾を使ったのは明らかだという。

「このような事件を起こす隊員が罪を問われない現状を終わらすべきだ。イスラエルの友好国は本気で圧力をかけ、また、パレスチナ側はICC(国際刑事裁判所)への提訴を追求すべきだ」とウィトソン部長は語った。(6/9 Maan News=Palestine Chronicle)

現場動画はこちらのサイトで見られます:


【6月10日(火)】

■イスラエル次期大統領にリヴリン前クネセト議長■

クネセト(イスラエル国会)は、任期満了に伴う大統領選挙で、与党リクード所属議員のレウベン・リヴリン前国会議長(74)を選出した。任期は7年で、地元メディアによると、7月24日に就任予定。リヴリン議員は1988年に初当選し現在7期目。 リクード党首のネタニヤーフ首相以上に保守強硬派とされる。 パレスチナとの和平に関しては、パレスチナ国家の樹立を目指す2国家共存案に反対。西岸地区などもイスラエルの正式な領土とすべきだと主張している。(6/10 毎日)


【6月12日(木)】

■アメリカ上院議員88人「パレスチナ統一政府との協力に反対」書簡■

アメリカ上院の88議員は、連名でオバマ大統領に書簡を送り、パレスチナ統一政府が「平和達成の努力に深刻な影響を与える」とした。 また、アッバース大統領が国際社会のなかでパレスチナの地位を高める努力をしていることについて、「イスラエルとの二国解決を達成するための直接交渉を阻害するもの」と指摘している。アメリカ国務省は、今月2日にパレスチナ国民統一が成立して間もなく、統一政府と協力する意向を表明している。(6/12 Haaretz)

■東エルサレムでも、ハンスト政治囚に連帯スト■

イスラエルによる行政拘留に抗議して、旧市街を含む東エルサレムで、ハンストに連帯するパレスチナ人の商店がシャッターを下ろした。西岸各地で行われている連帯行動に呼応した。PLOのサーイブ・ウライカート交渉局長は、バン・キムン国連事務総長に、行政拘留廃止の圧力をかけるよう要請した。

イスラエル政府は、依然として、囚人側の要求を拒否、イスラエル保健省は、当局外の医師による囚人の診療を禁じている。クネセトは、ハンストの囚人に食事を強制する立法の審議を開始。 一方、イスラエル医療協会は、強制給食が拷問に当たり、国際法で禁じられていると指摘。イスラエル国内 法で認められて も、強制給食を実施した医師は訴追を免れるのは困難だろうという。(6/12 Haaretz)


(出典:Haaretz、Maan News、Palestine Chronicle 、Reuters、毎日、)


<注1> 2011年5月、ファタハとハマースは、統一政府の再建 で合意しました。しかし、この合意実施は手間取り、西岸地区とガザ地区の政権は存続しています。このニュースでは、統一政府が実現するまでの間、引き続き、「アッバース大統」「ファイヤード首相」(西岸政権)「ハニーヤ首相」(ガザ政権)の名称を使うことにします。

<注2> 9日の国連総会決議で、パレスチナは、国連によって、ヴァティカン同様「オブザーヴァー国家」として承認されました。「パレスチナ国家」「PLO」「パレスチナ自治政府」(西岸政権とガザ政権)の関係がどうなるのか、国際法的にも微妙な問題がありそうです。パレスチナの組織やパレスチナ人の役職などをどう表現するか、依然として、試行錯誤中です。

<注3> 各ニュース記事末尾の(カッコ)内は、その主なニュース源です。必ずしも、元の記事の翻訳や抄訳ではありません。とくに断らない限り、Webサイト上の情報です。
日本語ニュースの場合、固有名詞の表記などは、編集者の判断で変えることがあります。ご理解をお願いします。

<注4> この速報では、東京外大「日本語で読む中東メディア」(中東ニュース)と、フランス語紙翻訳グループ「ジャリーダ・ファランスィーヤ」による記事を時々利用させていただいております。編集者の責任で、記事を短縮する場合があります。

編集:岩浅紀久

HOMEに戻る