■□ パレスチナ関連ニュース□■
7月31日、ナーブルス近郊の村で、パレスチナ人の住宅に火炎瓶が投げ込まれ、幼児が殺されたニュースは、前回お送りしました。その後、彼の父も酷い火傷のため入院先で死亡しました。 幼児の母も幼い兄も危険な状態だといいます。世界に衝撃を与えたこの事件で、ネタニヤーフ首相も犯人を非難しましたが、このような狂信者が活動する土壌を誰がつくってきたのか、それが問題です。
8月4日の「毎日」のインタビュー記事、3日のHaaretzのAmira Hass記者の解説がこの点を指摘しています。
ガザ地区ラファハでは、昨年のイスラエル軍による攻撃で破壊された建物のガレキを撤去していた一家の4人が、不発弾の爆発で死亡しました。けが人は30人になります。
また、ガザ地区では、2013年になって、乳児死亡率が5年前よりも増えていることが明らかになりました。1960年に統計を取り始めて、乳児の死亡率上昇の数字が出たのは初めて、こんなことは、中東地域では異例だということです。
行政勾留に抗議して長期ハンストを行うパレスチナ政治囚の記事は、今までにも紹介していますが、10日、ハンスト中の政治囚に強制給食しようとしたことが報じられています。囚人が入院中の病院の医師たちが、人道に反するとして強制を拒否したので、その囚人は別の病院に移送されたようです。
イスラエルの国会(クネセト)は、最近、強制給食を可能にする法律を可決しました。強制給食というのは、患者の意思に反して鼻からチューブを入れて栄養を流し込むなどの方法で、無理に食事をとらせることを言います。
【8月6日(木)】
■ラファハで不発弾が爆発、4人死亡、約30人が負傷■
ガザ地区南部のラファハで、昨年夏のイスラエル軍によるガザ地区攻撃で使われた不発弾が爆発、攻撃で倒壊した建物のガレキ撤去作業をしていたパレスチナ人4人が死亡、医療筋によると29人が重軽傷、うち10人が重体だという。
不発弾は、昨年7月、ハマース軍事部門の幹部宅に投下されたものだが、この幹部にけがは、なかったもよう。犠牲になったのは、アブー・ニクラ家の18歳から38歳までのメンバーだという。(8/6 Haaretz)
【8月7日(金)】
■イスラエル軍がガザ地区中部を空爆、ロケットへの報復■
早朝、ガザ地区からイスラエルへロケット3発が発射され、1発がイスラエルの分離壁近くに着弾、サラフィスト「アンサールの息子たち」(The Grandsons of the Companions of the Prophet)と名乗るグループが実行を認めた。怪我人などはなかった。イスラエル軍は、同夕、ガザ地区中央部を空爆、パレスチナ側の警官4人が重軽傷を負った。(8/7 Haaretz)
【8月8日(土)】
■放火で焼き殺された幼児の父も死亡■
ナーブルス近郊のドゥマ村で7月末、パレスチナ人の民家が放火され、男児(1才)が死亡した事件で、重度の火傷を負っていた男児の父サアブ・ダワブシェが、ソロカ病院で死亡した。この事件で、妻ともう一人の男児も重体。ファタハ中央委員を含む数千人が彼の葬列に参加した。
ネタニヤーフ首相は、「先に病院を見舞ったとき、われわれはあらゆる手段で殺人者を捕え、裁判にかけることを約束した」と語った。 国連中東和平調整官ニコライ・ムラデノフは、「政界、社会、宗教界の指導者は、情況を過激派がエスカレートさせることがないよう強調すべきだ」と述べた。
国連人権調整事務所によると、今年だけで、入植者によるパレスチナ人への攻撃は120件以上。これらの入植者には、しばしばイスラエル軍が付き添うが、入植者の暴力を止めることは稀である。(8/10 Maan News、Reuters)
【参考記事1】 若者の過激思想、対応をユダヤ教指導者(ラビ)で過激派に詳しい「イスラエル宗教間協力評議会」ロン・コルニシュ博士の話
(8/4 毎日)
放火したのは、おそらく過激思想を持つ若者だろう。正統なユダヤ教徒ではない。問題はイスラエル政府がこの数年、こうした犯罪に対処せず、エスカレートさせてしまったことだ。1995年にパレスチナとの和平を進めてきたラビン首相(当時)がユダヤ教過激派の青年に暗殺されて以降、治安当局はこうした「テロリスト」の動向を注意深く見てきた。逮捕が技術的に難しいとは思わない。
だが「政治」にその意思がない。(現政権は)彼らを選挙で選んだ右派を怒らせたくないと思っている。だが、若者に過激思想を吹き込んでいる宗教指導者を捕らえ、本気で対処しなければ、宗教戦争に発展しかねない。今回の事件は、こうした問題に向き合う警鐘ととらえるべきだ。
【参考記事2】 8/3 Amira Hass, Haaretz から
「国際法に則れば、全占領地区のパレスチナ人の安全保障に責任を持つのは、イスラエル軍だ。オスロ合意によっても、イスラエル軍は、少なくともB地区とC地区住民の安全に責任を負っている。しかし、軍が公言し、実行していることは、入植者の安全と入植活動を守ることだけである・・・・
イスラエル軍とシン・ベト(諜報機関)は、パレスチナ自治政府の治安部隊がイスラエル人へのテロ防止を助けていることを称賛する。しかし自治政府は、パレスチナ人をイスラエル人のテロ攻撃から守る活動を認められていない。事実、パレスチナの治安部隊は、イスラエル軍がA地区に侵入するとき、自宅や勤務先に隠れてしまうのだ。 A地域では、自治政府治安部隊が警察権を持つことになっているのだが。
【8月9日(日)】
■放火殺人の被疑者ら逮捕■
イスラエル当局は、ドゥマ放火殺人事件で、数人の被疑者を逮捕した。また国防省によると、放火実行犯ではないがユダヤ過激派とされる2人を行政勾留した。
事件の被疑者は、アウト・ポスト(イスラエルでも公認されていない仮設入植地)の居住者。逮捕者の氏名や人数は明らかにされていない。行政勾留された一人は、メイル・エッティンゲル(23)で、過激な人種主義者として知られたメイル・カハネの孫。カハネは、1990年にニューヨークで暗殺されている。
この事件で、パレスチナ自治政府当局者は、被害者の解剖報告をICC(国際刑事裁判所)に送ったという。(8/9 AFP)
■ガザ地区の乳児死亡率が半世紀ぶりに上昇■
UNRWAの清田明宏保健部長によると、ガザ地区の乳児死亡率が半世紀年ぶりに上昇していることがわかった。中東で乳児死亡率が増加するのは異例。
ガザ地区での1歳未満児の死亡率は、2013年に22.4(1000人比)となり、2008年の20.2を上回ったことが確認された。1960年には127と非常に高かったが、以後、着実に減少していた。4週間以内の死亡率では、2008年の12に対し、2013年には20.3に上昇している。
UNRWAは、5年ごとに乳児死亡率を公表しているが、2013年の数字が異常に高かったので、データを再調査して確認、このため発表が遅れたと説明している。
「原因は特定できないが、これは長期的な傾向。長期の(ガザ地区)封鎖が保健施設・医薬などの不足を招いていることを非常に憂慮している」と清田医師は語った。(10/9 AFP=Daily Star)
■ナイフで襲ったパレスチナ人を射殺■
イスラエル警察によると、西岸地区のガソリン・スタンドでイスラエル人(26才)をナイフで刺したパレスチナ人が、治安部隊に射殺された。イスラエル人は軽傷。(8/9 Reuters)
【8月10日(月)】
■ハンストのパレスチナ政治囚に初の強制給食?■
裁判抜きの行政勾留に抗議して57日間のハンストを続けている、パレスチナ政治囚、ムハンマド・アランは、ベエルシェバのソロカ病院からアシュケロンのバルジライ医療センター(Barzilai Medical Center)へ移送された。国際赤十字は、アランの生命が危険にさらされていると警告している。
強制給食は人権無視との立場をとる「人権のための医師団=イスラエル」のツイートによると、ソロカ病院の医師たちは、アランに対する食事強制を拒否したという。
アランの弁護士は、イスラエル当局が「強制給食を計画している」ことを伝えたという。クネセトは、7月30日、ハンストの囚人に強制給食を認める法律を可決。実行されればアランが初のケースになる。(8/10 Maan News)
(出典:AFP、Haaretz、Maan News、Reuters、毎日)
<注1> 2007年以来、事実上分裂状態にあったパレスチナ自治政府は、2014年6月24日、ようやく統一内閣を発足させました。統一合意では、暫定政府のもと、6ヶ月以内にPLC(パレスチナ立法評議会)と大統領選挙が行われることになっています。期限は過ぎましたが、状況は流動的です。西岸・ガザ地区での行政機構の整理統合も進んでいない模様です。関係者のタイトルなど、一貫性に欠けることもあると思いますが、ご了承ください。
<注2> 2012年9月の国連総会決議で、パレスチナは、国連によって、ヴァティカン同様「オブザーヴァー国家」として承認されました。「パレスチナ国家」「PLO」「パレスチナ自治政府」の関係がどうなるのか、国際法的にも微妙な問題があります。パレスチナの組織やパレスチナ人の役職などをどう表現するか。この点についても、その都度判断することにします。
<注3> 各ニュース記事末尾の(カッコ)内は、その主なニュース源です。必ずしも、元の記事の翻訳や抄訳ではありません。とくに断らない限り、Webサイト上の情報です。日本語ニュースの場合、固有名詞の表記などは、編集者の判断で変えることがあります
編集:岩浅紀久
HOMEに戻る